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マンション改修工事第3回 [建築(マンション)]

マンション改修工事の最終回です。

<「共同住宅ながさき」の歴史>
 1978年にコーポラティブ方式のマンションとして完成した「共同住宅ながさき」の居住者たちは建設時から多くの難関を乗り越えてきました。当時は日影条例がなかった時代でマンション反対運動が盛んに行なわれていました。「共同住宅ながさき」も例に漏れず、建築工事開始早々に周辺住民による反対運動が巻き起こり、ついに裁判にまで発展しましたが、和解により一人の脱落者も出さずに完成にこぎ着けました。

 コーポラティブ方式というのは居住者自らが土地を探し、設計に関わり、建設業者を選定することによって、自分の予算や希望の間取りのマンションを手に入れると同時に、マンション住民同士のコミュニティーを形づくるというものです。そこにはマンション業者は介入せず、その分費用も安く造れるメリットがあります。

 マンションの管理運営は全て住民の手によって行なっています。毎月行なわれる定例会、年一度の総会、子どもたちが小さい頃はクリスマスパーティーや遠足や潮干狩りなどいろいろな行事、10周年と30周年の時には、住民の手による「記念文集」を発刊しました。このように「共同住宅ながさき」では苦労を分かち合い、楽しみながらマンションの自主管理の実績を積み重ねてきたのです。

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「共同住宅ながさき」2009.12忘年会風景

<改修工事検討プロセス>
 私が改修方法の検討会議に参加した時には、すでに1年近く管理組合として検討が進んでいて、いくつかの改修業者と改修工法が候補に挙げられていて、見積書もそろっていました。改修したマンションの事例見学も行ない、あと少しで結論が出るところまで来ているかに見えたのですが、ここからが大変でした。

 「共同住宅ながさき」はコンクリート打放し仕上げであり、改修にあたってその外観のイメージを残したいという点で居住者は概ね一致していました。また、改修工事の目的は建物の耐久性を高めることが第一で、外壁の美化は二の次と考えていました。

<検討されていた改修方法>
1.厚塗り工法(吹き付けタイルの類い)
  防水性能、空気を遮断する性能(断気性)が高く中性化防止性能が高いが、外観イメージが変わってしまうのが難点。
2.打放し風工法(カチオンモルタル塗り+塗装で打放し風の模様を付ける工法)
  いかにもお化粧的で、偽物っぽいという点で少数意見だったが、外観イメージと中性化防止性能を両立する案として採用された。
3.透明塗料吹付け工法(透明塗料を吹付け、現状のコンクリート表面がそのまま見える仕上)
  外観イメージを残せる点で設計者は最後までこだわったが、無数のピンホールがあいているコンクリート表面に塗装しても連続した皮膜を形成することができないということで不採用となった。
4.再アルカリ化工法(薬剤を塗布しコンクリート自体を再アルカリ化する工法)
  再アルカリ化ということで根本治療かに思われたが、前回の改修時の塗装が部分的に残っていて薬剤が均一に浸透させることができず、アルカリ性と酸性がむらになった状態になり、かえって鉄筋の錆を助長することになることが判明し不採用となる。

<結論を導いた調査と診断>
 中性化の進行が進んだ場合にどのような症状が現れてくるのかについて居住者の多くが不安に思っていたことと、上記の4案から結論を得るためにコンクリートの状態を調査診断することにしました。
A.コア抜き
  一般部のコア抜きは既に行なっていたが、鉄筋部のコア抜きを行ない、鉄筋の状態を目視確認したところ、錆の進行までは至っていないことがわかり安心することができました。
B.前回改修時の塗装の剥離試験
  前回の塗装がどの程度残っているか剥離試験を行ない、塗料がコンクリートに数ミリ浸透していて剥離剤では除去できないことが分かった。その結果、薬剤とふによる再アルカリ化が難しいことが判明しました。
C.コンクリート強度試験
  シュミットハンマーによる強度試験で設計強度を大幅に上回る結果が出てひと安心。中性化するだけでは強度低下を招かないことが確認できました。中性化は進行を遅らせることはできても止めることができない。鉄筋を錆びさせないことが大事で、そのためには錆の原因となる空気と水を遮断することだとの確信を持つことができました。
D.付着力試験
  前回の塗装が残っている上に塗装する場合の付着試験として、モルタルの種類、シーラーの有無、下地荒らしの方法等でマトリックスをつくりそれぞれの付着力を計測しました。その結果、カチオンモルタル、シーラーは使用しない、下地は荒らさないケースの結果が一番良かった。
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 中性化の進行を遅らせ、鉄筋の錆を防止するためには防水性と断気性を備えた工法を選択する必要があることから、カチオンモルタルを薄塗りした上にフッ素塗料を吹付け、さらに光触媒を上塗りする工法で改修することに決定しました。カチオンモルタルを塗ることによってピンホールのない平滑な下地をつくり、連続的な塗膜を形成できると考えたのです。

 
 マンション改修工事にあたっては、居住者の意向を良く聞くことが重要であることはいうまでもありません。加えて、建物の状態を詳細に調べることが、適切な改修方法を打ち出すためには不可欠だといえるでしょう。「共同住宅ながさき」の例では、適切な調査を行なったことで、居住者が漠然と不安に思っていたことが解消されたことと、中性化に対応するにはコンクリート打放しは諦めざるを得ないという覚悟ができたことなどから、工法が絞り込まれ結論に至ることができたと考えられます。

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